2017.09.21 大原青子先生インタビュー③
自由の意味とルールの伝え方


前回までのインタビューでは、「モンテッソーリ教育に対する疑問」や「モンテッソーリ園を選ぶポイント」についてお答え頂きました。

 

今回は大原青子先生に、モンテッソーリ教育の中でとても重要な考え方である、「自由の意味とルールの伝え方」についてお話を伺いました。

 

大原青子先生 プロフィール

社会福祉法人香楠会エミール保育園 園長

AMI(国際モンテッソーリ協会)認定 准教師養成トレーナー(0-3歳レベル)

久留米信愛女学院短期大学 幼児教育学科 非常勤講師

慶應義塾大学文学部哲学科卒、福岡教育大学修士課程修了M Ed取得

AMIパリコースにて幼児(3-6歳)レベルの国際教師資格取得

AMIデンバーコースにて乳児(0-3歳)レベルの国際教師資格取得

 

 

 

自由と規律とは?

– モンテッソーリ教育の理論の中でも、「敏感期」や「環境を整えること」等は比較的知られていると思いますが、「自由と規律」についてはあまり馴染みがないように思います。

 

大原先生、これはどういった考え方なのでしょうか。まず「自由と規律」の「自由」とは何でしょうか。

 

「モンテッソーリ教育でいう『自由』というのはとても誤解されがちですが、『放任ではない』事が一番のポイントです。」

 

(図書コーナーで自由に本を読む子ども達)

 

 

自由と放任の違い

「『自由』というのは、規律がないと成り立たない物なのです。だからきちんとルールを守っていないと『自由』は得られません。」

 

– 自由と規律というのは、コインの裏表のようにセットになっているのですね。

 

「はい。それに対して『放任』というのは、『何でも好き勝手。』『何をやってもどうやってもどうでもいいよ。』という、規律がなくて勝手気ままな状態です。

 

しかし一般的には、この異なる2つの概念が混同されがちです。」

 

 

モンテッソーリ教育の「自由」

「モンテッソーリの言う『自由』とは、『不自由の反対』の『自由』。しかも規律を伴った、本当の意味での『自由』なのです。

 

分かりやすい例で言うと『交通ルール』です。自由にどこでも車で行き来したければ、全員が交通ルールを守らなければなりません。もし赤信号でどんどん行ってしまう人ばかりなら、青信号で進めるはずの人も待たなければならず、渋滞や事故だらけになります。

 

皆が交通ルールを守っているから、安心して自由に行き来できる。それが『自由と規律』の一番分かりやすい例だと思います。」

 

 

クラスでの例

「クラス環境で言うと、例えば2人の子が同じ『パンをつくる』という活動をやりたがったとします。でも、パンを作る道具は一つしかありません。2人の子が同時にパンを作りたいと言ったときは、『先にエプロン着けていた子がやる』と決まっているので、遅れてきた方の子はもうできません。」

 

 

でも、もしどうしても次にやりたければ、『その子が終わるまで待っていなければならない』という明確なルールがあります。

 

どの活動でもそうです。待つのは嫌でしょうけれども、『今やっている子の邪魔をしたり、横取りしたりしないで静かに待つ』というそのルールを守ると、自分の番が回ってきたときにも、誰かに邪魔されたりしないのです。

 

モンテッソーリのクラスを一般の人が見たときに、『皆が好き勝手やっている。それなのになぜか静かですね。』『落ち着いていますね。秩序があるね。』と言われるのは、そういうことです。

 

皆それぞれが自由に好きなことをやっているのですが、実はたくさんのルールを守りながらやっているのです。」

 

(アメリカ、ポートランドのAMI認定園 Puddletown School3-6歳クラスの様子)

 

 

場所の自由

「例えば活動をやる場所も、どこでも良いのです。『場所を選ぶ自由』もあるので、机に座ってやっても良いし、絨毯でやっても良いし、今日はあっちじゃなくてこっちのコーナーでやっても良い。

 

ただし、『部屋の外には出ない』などの大枠のルールがあるのです。」

 

– 好きな所どこででもやって良いけど、外には出ないでね、ということですね。

 

 

時間の自由

「そう。あと『時間の自由』もあります。いつまでも、ずっとやり続けても良いし、今日も明日も明後日も同じ活動しても良いのだけれども、ただし給食の時間になったら片付けようね、とか。そのように、時間の大枠の規律と言うのは一応あるわけで、皆それを守っているのです。」

 

 

 

ルールを伝える方法

– 自由と規律はセットになっているわけですが、ではその規律(ルール)を守らせる為に、先生たちはどのようにされているのでしょうか。

 

「ルールは、口で上から言って聞かせて出来るようになるものではなくて、内的な『従順性』が育って初めて守れるようになりますが、それができ上がってくるのは大体4, 5歳の時期になります。

 

1, 2歳の、まだルールという事もはっきり分からない時期に『これはこうじゃないよ。違うよ。』と言い続けても、あまり効果がないと思います。

 

勿論、良いことと悪いことを口で伝えるのは良いのです。ただその子が実際にできるかどうかは別です。まだ内側の従順性が育っていないために、いずれにせよできないと思います。」

 

(1歳半すぎの子ども達)

 

「その内的な従順性という物は徐々に育ってきて、4, 5歳になると本当にルールを守れるようになり、良いことと悪いこともはっきりと分かるようになります。

 

5歳になったばかりくらいの子が『先生。○○ちゃんが、ちゃんとこれしてないよ。』『○○ちゃんが、水道の蛇口開けっ放しにしてる!』とか言いつけ来るのは、ルールがきちんと分かってきた証拠だと思います。」

 

– ではそんな風になるために、どうしたらよいでしょう?

 

「これもモンテッソーリ教育の特徴的なところなのですが、『言って聞かせる。というよりは、『外の環境をちゃんと秩序だったものにする。』ということが大切です。」

 

 

外的秩序が内的従順性を育てる

「それは、『いつも同じ場所にある。』とか『ちゃんと戻す場所が決まっている。』というような『外的な秩序』をしっかりと周りの大人が作ってあげたり、やって見せてあげたりすることです。」

 

(乳児クラスの秩序だった環境)

 

「例えば同じ場所に同じ物を元に戻している姿を見せるとか。そういう風に、環境内の『外的秩序』をしっかりと整えてあげることによって、今度は子どもの内側から湧き出てくるような『内的秩序』が育つことになるのです。」

 

– つまり外的な秩序を整える事によって「内的な従順性が育って来る」という訳ですね?

 

「そうです。内的な従順性は『内的秩序と言っても良いでしょう。その内的秩序が育って来ると、自ら『ルールを守りたいな』という『従順性』となります。」

 

– では、その4,5歳より前に「自由と規律」という概念を伝えるのは、無理なのでしょうか?

 

「無理ではありませんが、0-3歳の段階では自由と規律』の基礎となるものをしっかりと育てておいた方が、後が楽です。」

 

 

 

 

0-3歳の基礎づくりとは?

 

– 0-3歳の時期に「自由と規律の基礎」を育てるには、具体的にどうすれば良いのでしょうか? 

 

「まず一番した方が良いのは、選択をさせる』ことです。」

 

 

選択をさせる

「結局いくら、ルール、ルールと言っても、自分の中で腹落ちしていないルールって守りたくないですよね?何で?』って。

 

例えば、中学のときとかに前髪を眉毛よりも上に切りなさい』ってルールがあったとします。すると、何で?別に少し眉にかかっていても、何も邪魔じゃないし!』と反発をしませんか?

 

そういう意味のないルールは、中学生はまだ先生が怖いから守るかもしれませんけれど、1,2歳児くらいだとまず守らないですよね。」

 

– それが何故、ちょっとずつ「ボクもルールを守ろうかな」と言う気になるのでしょう?

 

「それは、『守らなかった時に大変だったな』という結果を体験しているからです。」

 

例えば『お昼の前に手を洗いなさい』いうルールがあったとします。」

 

 

「先生に『手を洗っていないと食べられないよ』と言われて、『どうする?洗う?洗わない?』となった時に、子どもが『いい。洗いたくないから、洗わない。』と言ったとします。これも選択なのです。

 

そして、結局その子は本当にご飯を食べられなくて『ああ、とてもお腹が空いてるのに、食べられなかった!』という結果を体験する事になります。

 

そして、『この時は、皆みたいに洗った方が良いのだ。だから”洗いなさい”なんだ。』という風に理解するのです。

 

小さい事ですが、様々な場面でこのようなことがあると思います。」

 

 

選択した結果の体験

「家庭でも例えば、『靴を早く履いて。』『履くの?履かないの?』『履かないと保育園に遅れちゃうよ。』と言っているお母さんがいたとします。

 

子どもが『嫌だ。』と言ってなかなか履かなかったから、結果として『本当に保育園に遅れちゃった。朝の会も終わっていて、他の子はとっくに活動を始めていて、さみしい思いをした』といった結果を体験する事になります。

 

そういう風に、ルールを『守るか、守らないか』の選択肢になった時、結果を体験して、少しずつ『あ、やっぱりお母さんが”こうしなさい”って言っていた事をしてた方が良いのかな?』という感覚が少しずつ育ってくるのです。これが『従順性』です。」

 

– 自分がルールに従わない選択をした結果、「本当に何かできなかった。」「えらいめにあった!」という、その「結果」を体験したことが、従順性を作る基礎になっていくということですね。

 

「そうです。0-3歳までの間に『自分が選択をした結果に責任を持つ。』つまりその『結果を体験する。』ということが、その子の従順性を育て、それが結果的に4,5歳以降の『自由と規律』をしっかり守っていくことに繋がるということです。

 

ですから、ある意味、子どもはこういったことを『自分で学んだということです。」

 

 

– なるほど。誰かからガミガミ言われてやるようになったのではなくて、自分がその体験したことによって「こっちにした方が良いな」と本当に感じたためなのですね。

 

「そう。それこそ正に内側から出て来る従順性です。

 

子どもは『ルールを守りたい。』しかも『ルールは守った方が得なんだな。』とか『守った方が上手くいくな。』という従順性を自ら育んでいくわけです。」

 

 

 

家庭での「しつけ」

– また少し違う話かも知れないのですが、おうちで「しつけをする」ということを考えた時、この「自由と規律」の考え方は役に立ちますか?

 

「すごく役に立つと思います。とにかく念頭に置いとくべきは、『結果を体験させる。』ってことです。

 

例えば『ほら○○に間に合わないよ!ちゃんと着替えて靴履かないと。』と言ったとします。でも大人も焦っているので、そう言ったのに『子どもがやるのを待たずに、結局親自身がバっと洋服も着がえさせて、靴も履かせてそれで急いで行って結局間に合う。』という体験をするとします。

 

それをしてあげると、子どもにとっては『嫌だ嫌だ!って言っていても、結局間に合うんだな。』となるということです。親は、子どもが可愛いから、必ずそういうことしてしまいがちなのです。」

 

親としては、大変な状況になる前に、手を出して救ってしまいたくなりますね。

 

「他の例では、歩き食べをする子の場合、本来は席に着いて食べないといけないのに、ウロウロ歩いて食べていて『そんな風にして食べないんだったら、お母さんこれ片付けちゃうからね!』と言いながらも、結局最後食べるまでずっと置いておく人もいますよね。

 

または片付ける振りをしていても、遊んだ後に子どもが戻って来て『あー。やっぱりママ、お腹空いたよ。食べたいよ。』って言った場合、『あー、もうしょうがないわねぇ。今日だけよ。』とまた出してあげたりしがちです。」

 

 

「だから『ウロウロしてふざけていても、結果的に結局食べられる。』ということを学んでいると、内的な従順性というのはなかなか育たないのです。

 

大人も『これこうしたら、こうなるよ!』って言ったんだったら『大人側も言った事を必ず守る』ということが大事です。」。

 

– 親も覚悟を決める必要があるのですね。

 

「本当にそういう事が分かってないと、なかなかできないと思います。最終的に親が尻拭いしてくれる。辻褄を合わせてくれる。その味を占めたら、子どもは何も言うことを聞かなくなります。ルールを守るということも『でも、ルール守っても守らなくても結局一緒じゃない?』と思ってしまいます。」

 

– 結果として「ルールを守らなくても大したことない」と学んでしまう、ということですね。

 

「そうなんです。親もどうにか辻褄合わせたくなってしまいがちですが、内的規律・内的従順性ができるためには、『選択させてその結果までを体験させる』ということが大切なんです。」

 

 

 

 

【自由の意味とルールの伝え方 まとめ

・モンテッソーリの言う「自由」は「放任」ではなく、規律を伴った「自由」。

 

・「自由」は規律がないと成り立たない物で、「放任」は規律がなくて勝手気ままな状態。

 

・ルールは、おおよそ4, 5歳の時期に内的な「従順性」が育って始めてきちんと守れるようになって来る。

 

・「外的な秩序」が「内的な従順性」を育てる。

 

・その前段階として、0-3歳の時期には「選択させ、その結果を体験させること」が大事。

 

 

大原青子先生、モンテッソーリ教育の考え方や、沢山の育児のヒントをお話しいただき、本当にありがとうございました。

 

0-3歳の子どもの育ちやモンテッソーリ教育のスペシャリストである大原青子先生には、またの機会に「イヤイヤ期」等についても、ぜひお伺いしたいと思います。

 

 

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