引き続き、オーストラリアのシドニーにあり、モンテッソーリ教育の手法を用いた認知症ケアを導入している高齢者施設「Elizabeth Lodge(エリザベスロッジ)」をご紹介します。
前回は「サイン」「活動」「役割」の実践や環境をご紹介しました。
今回は、入居者ファーストであるこちらの施設の、その他の様々な工夫をご紹介したいと思います。
入居者のための様々な工夫
食堂
好きな時に来て、食事ができる食堂。素敵なレストランのような雰囲気です。
その日の一日のメニューです。その下には「別のものを召し上がりたい場合は、遠慮なく聞いて下さい!」と書かれています。
ご飯はブッフェ形式です。
自分が食べたい物を選ぶことができるそうです。
おやつコーナーもブッフェ形式。「あなたのテーブルです。コーヒーやお茶、冷たい飲み物、ビスケットを遠慮なく召し上がってください。」と書かれています。
エレベーター
エレベーターの前の待合ソファの様子。右奥には、行きたい場所ごとに色分けされた、エレベーターの行先が書いてあります。
エレベーター内の行先ボタン。
エレベーター内の掲示物。「これから何があるか」「レストランのメニュー」等。
他にもたくさんの掲示物が。
談話室
入居者同士でお話をすることも、とても大切です。
ここは、テニスなどの好きなスポーツや音楽の話をする談話室。
カメラやお花が置かれています。
ゴルフ道具なども飾られています。
好きな本や、音楽の話も弾みそうですね!
ウェディングドレスも飾ってありました。嬉しそうに思い出を語る女性もいらっしゃるようです。
ここで過ごしている入居者の方々の様子も見られました。
洗濯室
ここには、入居者が使えるランドリーもあります。
洗濯の手順なども書かれています。
ビジネスセンター
雑誌やPC、インターネットやプリンターなどがある、ビジネスセンターもあります。「雑誌はいかがですか?」というサインが掲示されています。
ご意見箱
「利用者が主人公」のエリザベスロッジでは、常に利用者の声を募集しています。
「何か意見がありますか?」「バス旅行ではどこに行きたいですか?」「どんな活動がもっと欲しいですか?」「クリスマスの好きな映画は何ですか?」などの質問に対し、様々な意見を入居者が直接伝えることができます。
見当識障害を助ける「○○の場所で会いましょう!」
広い施設内の様々な場所には、有名人の等身大パネルが設置されていました。これは認知症患者の「見当識障害」を助けるものだそうです。
見当識とは、時間・場所・人物などを手掛かりに、自分がおかれた状況を認識する能力のことです。
こちらのパネルは、エドナさんというオーストラリアの人が誰でも知っている芸人さん。
入居者の方と待ち合わせしたい時、「私のオフィスに来てね」と言って分からなくても、「エドナのところに来てね!」と言えば分かるそうです。
そばには「エドナは、新しいカーペットの色はどれが良いのか知りたいそうす。番号を書いて、意見箱に入れて下さい。」と書かれていました。ここでも、入居者に意見を聞いています。
食堂の前のサイン。エルビス·プレスリーのパネルが見えます。
よく見ると、エドナさんと同様に、色のコントラストがきいた「名札」をしています。
名札は、スタッフ、入居者、面会者、その他関係者全てが着用します。それぞれの名前がわかることで見当識の助けになるため、モンテッソーリ認知症ケアにおいて、とても大切に考えられています。
オーストラリアでも人気のチャールズ英皇太子。「チャールズのところに、意見を書いていれてね。」と伝えるそうです。日本でするなら「天皇陛下のお写真のところにありますよ!」などになるのでしょうか?
喫煙と飲酒の自由
高齢者施設に入ったら、それまで好きだったタバコも、飲酒もできなくなる方は多いと思います。しかしここでは、喫煙の自由が保障されています。また、アルコールも、希望者にはふるまわれます!
マネージャーのレイさんは言います。「もし家だったら、自分で決めて飲むでしょう?ここでもそれができなくちゃ!」
何ごとにも入居者の選択や意思を尊重するそうです。
すべてはスタッフからはじまる!
マネージャーのレイさんが最も大事だと伝えてくれたのは、スタッフを満足させること。
(Ms. Rae.)
「スタッフの意見を聞き、環境を変える権利もあげます。毎週ささやかなフルーツやコーヒーなどを用意して、働いている人々を良い気分にしてあげることがとても大切です!
スタッフが幸せなら、利用者さんにも良い気分で接することができるからです。」
スタッフルームの掲示板。先週の金曜日のスタッフの働きについての感謝が貼られていました。
スタッフルームには、利用者さんについての情報がファイルしてあります。「エリザべス·ロッジの入居者の人生の物語を、読んでください」と書かれています。
また、「スタッフがさらに付け足せるページ」も用意されていました。
一人ひとりが「何が好きか」などを共有できるようになっています。
最後にご紹介したいのは、スタッフルームの掲示物です。
「私たちの約束」
私たちは、
1.共に自分が生活したい場所をつくります。
2.お互いを支えあいながら、入居者のための家を分かち合おうとします。
3.会う人全てに敬意と尊厳ともって平等に扱います。
4.入居者やスタッフ同士の信用を得ることが必要です。
5.モンテッソーリの理念を、すること全てと環境に適応します。
6.会う人全てを、自分がそう扱われたいように扱います。
私たちは、アングリケア(※キリスト教徒の非営利団体)です。キリストや他の人に仕えること、コミュニティの強化を活動の中心にしています。
みんなで、一丸となって「本気で」入居者ファーストの場所をつくり、「本気で」進化し続けようとしている、そんなエリザベスロッジでした。
エリザベスロッジの皆さん。マネージャーのレイさん、どうもありがとうございました。
日本にもこのような施設が増えることを、心から願っています。
取材者:あべようこ
Anglicare Elizabeth Lodge
46 Bayswater Rd, Rushcutters Bay NSW 2011Australia
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