2020.06.25 モンテッソーリ認知症ケアワーカーに聞く「モンテッソーリ認知症ケア」とは


モンテッソーリ教育の手法を用いた認知症ケア(以下、モンテッソーリ認知症ケア)」は、超高齢社会の日本でも注目されています。日本でも2019年にAMI友の会NIPPONによって「モンテッソーリ 認知症ケアワーカー養成コース」が開かれました。しかし、まだ実践している場所は少ないのが現状です。

 

そこで、2019年に東京でいち早くモンテッソーリ認知症ケアを取り入れたデイサービス「ポピー」を開所された、社会福祉法人ココロの会 理事長 山本一代先生のお話を伺いました。

 

(山本一代先生)

プロフィール

山本 一代 先生

AMI公認3-6のディプロマ取得。保育士として43年間の保育経験がある中で、平成4年からの28年間は保育所の経営者としても経験を重ねている。常に子ども達の成長の為に「今自分ができることは何か」を問いながら、より良い環境設定を工夫している。現在は、保育所2園、学童保育1カ所、認知症対応型デイサービス1カ所の経営を行っている。

 

(取材、文:あべようこ)

 

モンテッソーリ認知症ケアワーカーへ

あべようこ

あべ:

まず、山本先生のモンテッソーリ教育との出会いを教えていただけますか?

 

山本先生:

私は40年余り保育の道を歩いて来ました。その中でモンテッソーリ教育との出会いがありました。それは私の人生に大きな変化をもたらし、生きていく上での大きな力となりました。

 

保育士としても子どもに関わる際はもちろんのこと、私の子育てにおいても子どもを理解する上で大変助かりました。

 

あべようこ

あべ:

先生は、子育ての傍ら、保育所やこどものいえを運営した後に、デイサービス施設を設立されました。長年モンテッソーリアンとして保育をしてきた山本先生が、なぜ、高齢者のモンテッソーリケアに興味を持たれたのでしょうか?

 

山本先生:

今までたくさんの子どもや保護者との出会いにより、自分を育てていただきました。私は、そんな社会に対して感謝の思いがあり、日本の高齢社会において新たに自分にできることを模索していました。

 

そして、高齢者と子どもが関わることができる空間を作り、高齢者にモンテッソーリ教育を提示したいと考え、デイサービス「ポピー」の設立を決めたのです。

 

(デイサービスの利用者の方が保育園の子どもと触れ合う様子)

 

そんな時に、モンテッソーリ認知症ケアの世界的なトレーナーである「アン・ケリー先生」の研修が行われることを知り、受講することができました。

 

受講後は施設も完成して、その施設で実習ができたことは本当に幸せでした。「モンテッソーリ認知症ケア認定書」をいただいた第一期生であることを誇りに思っています。

 

(認知症対応型デイサービス「ポピー」の外観)

 

 

モンテッソーリ認知症ケアとは

あべようこ

あべ:

そうして「モンテッソーリ認知症ケアワーカー」になられたんですね!モンテッソーリの認知症ケアについて教えていただけますか?

 

山本先生:

モンテッソーリの認知症ケアにおいては、「高齢者介護にとって最適な行動指針」が示されています。

 

それは、

一人ひとりが可能な限り自立

コミュニティの中に自分の存在意義を見つけ

自己肯定感を持ち、自分で選択する機会を得て、コミュニティで意味のある貢献ができる機会がある

ということです。

 

 

(デイサービス「ポピー」の洗濯物を干す利用者の方の様子)

あべようこ

あべ:

子どもに向けたモンテッソーリ教育と同じコンセプトですね!それでは、違いはどんな部分でしょうか?

 

山本先生:

まず乳幼児は、誕生から成人までの発達を四段階に分けることができ、子どもの発達に応じていろいろな「敏感期」を見ることができます。

 

そして成長する過程において、自分で自分を作ろうとするため、活動を通して発達を促します。保育者は子どもに寄り添い、手助けをしていくことが大切です。

 

 

一方、高齢者の場合は人生経験豊富な方々です。用意する活動や、それに必要な用意するものが乳幼児とは違います。

 

モンテッソーリの認知症ケアにおいては、「認知症の方がどのような人生を歩んで来たのか」その人を良く知ることが一番大切なのです。

 

そして何歳であれ、どんな病をもっていようが、朝ベッドから起きて「今日は何をするのか」という計画を立てる必要があると学びました。

 

(好きな編み物をして過ごす利用者の方)

 

あべようこ

あべ:

その方のこれまでの人生を大切にするのですね!その他にはどんな特徴がありますか?

 

モンテッソーリ認知症ケアの特徴

山本先生:

モンテッソーリ認知症ケアの特徴として「役割」「活動」「サイン」などがあります。

 

役割

山本先生:

まず「役割」とは、対象者が生活するコミュニティ(施設、家庭など)の中での「係(かかり)」のようなものです。その方の興味や能力、ニーズを考慮しながら、それぞれに合った役割を決めていきます。

 

(アイロンをかける役割の様子)

 

その時、目的や期待する「成果」を言語で表現します。そして、その方が役割を行う「場所」を考え、必要に応じて環境設定を変えていきます。

 

役割を全体を通して考え、対象者にその役割を行う能力があるかどうか、修正が必要なところはないのか、日々確かめていきます。

 

(昼食の配膳の役割の様子)

あべようこ

あべ:

一人ひとりがやりたいこと、得意なことから役割を考えるというのは、素晴らしいですね!

 

活動

山本先生:

次に「活動」ですが、それは対象者が好きな時にできるアクティビティのことです。

 

(活動を紹介する棚の様子)

 

認知症と共に生きる人々の活動をデザインする時は、役割と同様に、その方のニーズや残存能力が反映されるように考えることが大切だと考えられています。

 

例えば、いろいろな記憶を刺激したり、物の認定や識別に五感を使うなどの活動があります。

 

(絵と名称を一致させる活動の様子)

 

その活動が正しいかどうかを見る一つの方法は、活動をしている「その方」が幸せかどうかです。

 

(保育園の行事の飾り付けを作る活動の様子)

 

あべようこ

あべ:

その方が「喜んで行う」ということや「選択できる」ということが大切なんですね!

 

サイン

山本先生:

また、環境に「サイン」をつけることも大事だと考えています。これは、場所や物の名称、やり方などを書いた標識で、記憶障害の症状のある方がそういったことを思い出す助けになります。

 

黄色の背景に黒字で文字を書くことで、コントラストがはっきりして見やすいようです。

 

(トイレでのサインの例)

 

利用者にわかりやすくサインを表示することで、自らトイレに向かったり、食事のためにダイニングに行くことができたり、活動、役割を自信を持って行ったりすることができます。

 

可能な限り「自立心」を維持できるんです!

 

(日時や場所を示すサインの例)

 

あべようこ

あべ:

認知症患者さんも、読字能力が最後まで残ると言われていますから、サインがあることで、誰かに聞かなくても、自分で行動することができるんですね!

 

利用者の方の変化

あべようこ

あべ:

モンテッソーリ認知症ケアによって、デイサービス「ポピー」の利用者の方にはどんな変化がありましたか?

 

山本先生:

例えばお一人目は、入所時は無表情で自ら動くこともなく、日中ほぼ傾眠傾向にある方でした。

 

ご本人とのコミュニケーションの中で、縫い物や調理、園芸等が得意であることを知り、環境の整備を細かく行いました。

 

(ポピーの庭で育てている野菜)

 

そして、隣接する当法人のチューリップ保育園の子どもたちとの昼食作りを通して、とても意欲が増していくのを感じました。

 

「○○さんすごーい!」「これはどうするの?」など、子どもたちが利用者様を頼りにし、「○○さん大好き!」とストレートに思いを伝えられる毎日。現在は、自らキッチンに向かい調理をしたり、敷地内の畑の水やりを気にしたり野菜の育て方の話をする機会が増えました。

 

(子どもと得意な調理する利用者の方)

 

以前通っていたデイサービスには、毎日のように「行きたくない」と話していたそうですが、当施設に来てからは一度も仰らないし、それどころか、毎朝玄関先で送迎の車が来ることを心待ちにしているそうです!

 

(子どもと得意な調理する利用者の方)

 

あべようこ

あべ:

保育園が隣接しているというメリットが最大限に生きている事例ですね!子どもたちが喜んでくれることで、役割や活動がより価値のあるものになっているんですね。

 

山本先生:

次の方は、入所時は外出もせず、他者との交流もお嫌いでした。入浴は半月に1回程度であり、以前登録されていた通所施設は合わずに、2日目にして行かなくなったそうです。

 

当施設に来所されてから、同法人の保育園の園児と交流を持つ中で、特定の園児(0歳児)を好きになり、その子に会うことが楽しみになりました。職員の名前は1年経った今でも間違えてしまいますが、その子の名前は一度も忘れたり間違えたりせずにいるんです!

 

(保育園の子どもと触れ合う利用者の方)

 

通所拒否もなく、毎回入浴もし、他者との交流も出来ていることは大きな変化です。また、ご家族やご本人のお話では、「通うのを楽しみにしている」とのことです。

 

あべようこ

あべ:

その方にとっては、0歳の子どもと触れ合うことこそが、最大の活動なんでしょうね!素晴らしい変化ですね!

 

山本先生:

このように、モンテッソーリ認知症ケアを通して変化する方がとても多くいらっしゃいます。当施設に通所されているご利用者様の中で、他施設への移動希望等が1例もないということは、とても励みになります。

 

 

あべようこ

あべ:

最後に、何かメッセージはありますか?

 

山本先生:

ポピーは私の思いがつまった、利用者様にとって最高に楽しい施設でありたいです。乳幼児のモンテッソーリ教育を松本静子先生より学ぶことができ、子どもの成長にとって大切なことがたくさんつまった宝箱を手にした私は、その知識を元にして、この度アン·ケリー先生より人生の最後まで自分らしく生きるためのケアを学ぶことができました。

 

今現在も利用者様一人一人をよく知った上で、その方にとって、より良いケアのできる施設が少ないと感じています。そのような中で、モンテッソーリ認知症ケアを取り入れた、認知症対応型デイサービス「ポピー」を開設する事ができ、日々子どもたちとの交流によって、笑顔の絶えない毎日を送れることが幸せであると感じています。

 

介護保険制度のしくみから収入面で苦しい一面もありますが、全力でポピーを守っていきたいです。

 

(共に働く、デイサービスや保育園の先生方と山本先生 ※3名ともモンテッソーリ認知症ケア資格取得者)

 

今後もモンテッソーリ認知症ケアの認定者と、施設が増える事を願ってやみません。今まで行われていた介護からモンテケアを取り入れた介護サービスにと変わっていけるよう、微力ながらお手伝いをして参りたいと思います 。

 

あべようこ

あべ:

山本先生、デイサービス「ポピー」の皆様、ありがとうございました!

 

社会福祉法人 ココロの会 認知症対応型デイサービス ポピー

東京都羽村市羽4191-3

http://day-poppy.com/

 

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