日本では、モンテッソーリ教育は主に6歳までのものとして知られています。しかし海外では、モンテッソーリ教育の小学校はもちろん、さらには中学校もあるのをご存じでしょうか?
中学校教師のトレーニング(AMIのモンテッソーリ教育思春期プログラム)を修了し、アメリカでモンテッソーリの中学校の先生として働くエマ・ロドウィンさんに話を聞きました。
(取材、文 あべようこ)
モンテッソーリ教育の中学校で働く
(エマ・ロドウィンさん)
経済的な自立の練習もする!
– 今モンテッソーリ教育の中学校で働かれているのことですが、その特徴をおしえてください。
「私の学校では、大体各クラスに12〜26人の生徒がいます。クラスは12歳~14歳までの縦割りです。生徒たちには一日のスケジュールがあり、決められたクラスに行きます。
科目は、算数、言語、歴史、科学、外国語、音楽、体育などです。例えば9時になったら算数など、どのクラスに行くのかはそれぞれが知っています。」
– なるほど!では、それまでのように、クラスの環境の中から好きなことを選んで自由にやるわけではないんですね!
「そうですね、うちの中学校の場合はそうしています。でも、一般的な中学校とは違う方法で教えるんです。全てのクラスは、彼らの発達段階のニーズに合うようにモンテッソーリ教育の視点から設計されています。生徒たちは、自分のプロジェクトを自分でつくり、自分の心から興味のあることを学んでいくんです。」
(モンテッソーリ中学校の様子)
– 他にはどんなことをしますか?
「勉強の他に、生徒たちは毎日農場でも働きます。鶏やお庭にも責任を持ちます。また、毎週自分たちが農場でつくったものを売るファーマーズマーケットもします。
こうした経験は、『若い大人』である彼らにとってとても大事なもの。なぜなら彼らが大人の世界でどうやって働くのかを学び、経済的に自立することの練習にもなるからです。彼らは、そういうことを『知りたい!』と思っているんです。」
(中学生たちが世話をしている鶏)
中学生の「自己表現したい」という欲求
「また、普通の学校との違いはとしては、『自己表現』のクラスがあること。
『自己表現』のクラスでは、音楽、美術、屋外活動、昼食調理、農場でのプロジェクトなどをします。思春期の彼らは『自分を表現したい!』という発達上の強い欲求を持っているんです。それを出せる場所があることで、満たされて、より創造的で社会に貢献できる存在となっていくと思います。」
(中学生たちが料理をする台所)
「そしてモンテッソーリ教育の中学校では、生徒たちは単に高校の学問的な準備をするだけではなく、他の人に親切で平和的で地球を愛する人間へと育むことが目標です。
この、思春期(中学校)のプログラムを通じて、集団を気遣い、礼儀と気品をもち、世界を変える存在となることを学んでいくんです。モンテッソーリ教育は、平和への教育なんです。」
モンテッソーリ教育の中学校の先生になるには
中学校教師養成コースの様子
– エマさんは、中学生に教えるモンテッソーリ教師の資格を2015年に取られたとのことですが、思春期(12歳〜18歳を対象としたモンテッソーリ教育)のプログラムについて教えて頂けますか?
「トレーニングは5週間のコースです。私はアメリカのオハイオで取りました。そのうち3週間は理論を学び、残りの2週間は自分で実践的な計画をつくります。モンテッソーリ教育の理論をしっかりと学ぶことで、実際生徒たちに何を教えたいか考えていきます。」
(AMIの教師資格証を持つエマさん)
「最初の週は、モンテッソーリ教育の中心となる原理と、1段階目(0歳~6歳)と2段階目(6歳~12歳)の発達の復習をします。2週目は、3段階目(12歳~18歳)の発達と、3段階目のモンテッソーリ教育の計画について全てを学びます。それらの期間は、ゲストスピーカーによる講義を通じて行われるんです。」
– ゲストスピーカーには、どんな方が来るんですか?
「モンテッソーリ教育のトレーナー、中学校の先生、そして時には中学生自身が来て話します。それぞれの講義は別の人が講演するので、ひとりのトレーナーに全てを教わるわけではありません。」
(実際の中学校のクラスの様子)
「3週目は、算数、科学、歴史のクラスや日常的な作業など、中学生たちが実際にすることを経験していきます。最後の2週間はそれらを統合して、ひとりひとりへの『勉強と仕事の計画』をたてます。
『勉強と仕事の計画』は、モンテッソーリ教育の『児童期から思春期まで』という本の中の理論をある分野に適応させてものです。」
(モンテッソーリ中学校にあるビニルハウス)
– エマさんは、国際モンテッソーリ協会(AMI)による小学校教師のトレーニングも受講中ですが、モンテッソーリ教育の小学生過程との内容の違いを教えていただけますか?
「モンテッソーリ教育の小学校では、子どもたちは算数、言語、歴史、幾何学、地理、生物学、美術、音楽のレッスンを受けて来ました。中学校では、それらがより抽象的で複雑になっていきます。
例えば中学生たちは代数を探索したり、文章を自分のスタイルで書けるようにしたりします。科学の理解は、農場を通じて成長していきます。また、外国語でのコミュニケーション能力もより良くなっていきます。
小学校までは、モンテッソーリ教育のレッスン内容がある程度決まっていました。でも中学校の先生は、クラス全体の必要性や興味に応じて自分でレッスンをつくります。例えば、古代史、現代社会、エッセイと詩の執筆、文学の分析などをします。」
– それでは最後に、これから資格を取りたい日本人にメッセージを頂けますか?
「世界中にもっとモンテッソーリ教育の中学校(思春期のプログラム)が必要です!中学校を作るためにできることがあるなら、たとえ小さなことでも、とても価値のあることだと思います。
12歳から18歳までの時期は、その子の人生の中でも、多くの愛、ケア、サポートを必要とする時期です。モンテッソーリ教育の中学校では、それらを与えます。
もっと知りたい場合は、マリア・モンテッソーリの書いた『児童期からから思春期まで』までの付録AとBを是非お読みください。
マリア・モンテッソーリの思春期の子どもたちへの天才的なアイデアは、ここにあります!!」
– エマさん、ありがとうございました。
モンテッソーリ教育の思春期プログラムに興味のある方へ
●モンテッソーリ教育の中学生教師のトレーニングが受けられるところ
【AMI/NAMTA Orientation to Adolescent Studies】
●トレーニング前のオリエンテーションが受けられるところ(4日間)
【Adolescent Introductory Workshop】
(取材、文 あべようこ)
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