2018.07.19 綿貫愛香先生インタビュー③ モンテッソーリ教育との出会いと未来


モンテッソーリ教育は、20世紀初頭にマリア・モンテッソーリ博士が考案した後、今日まで100年以上続いてきました。その影には祖国イタリアで苦労と工夫、研究を重ね、その炎が消えないように守り、つなげてきた、素晴らしいお弟子さんたちの存在がありました。そのお一人、医学博士シルバーナ・モンタナーロ先生(イタリア人、精神科医)は、0-3歳のモンテッソーリ教育のパイオニアとして、知られています。

 

そのモンタナーロ先生の愛弟子であり、その教えを未来へと受け継ぐ、日本人モンテッソーリ教師、イタリア在住のマリアーニ・綿貫愛香先生にお話を伺いました。

 

(マリアーニ・綿貫愛香先生)

 

マリアーニ・綿貫愛香先生プロフィール

AMI横浜コースにて乳児(0-3歳)レベルの国際教師資格取得。AMIロンドンコースにて幼児(3-6歳) レベルの国際教師資格取得。モンテッソーリ教師の母の元、幼少から自宅にてモンテッソーリ教育に親 しむ。思春期からスペインで育ち、その後もアメリカ、ドイツ、イギリスへ留学。日本 語、英語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語と5ヶ国語に堪能で多文化への造詣も深い。モンテッソーリ教育のI.C(Infant Community)1-2歳クラスの設立をロンドンではじめ て成功。AMIのモンテッソーリ教師育成コースの講義や試験、国際会議での通訳に加え、2018年春にはAMI公認の外部試験官に任命され、今後はペルージャの国際教師育成コースにて試験官も行う。現在は、北イタリアのミラノにてバイリンガルモンテッソーリスクールに勤務する。本場のモンテッソーリ教育に携わりながら、世界とイタリアの架け橋となるべく執筆、翻訳、通訳、研修の企画もこなす。一児の母。

 

 

 

モンテッソーリ教育との出会い

– 現在イタリア在住で、ミラノのモンテッソーリクラスで働かれていますが、モンテッソーリ教育との出会いを教えて頂けますか?

 

(現在勤める園「Scuola Montessori Bilingue di Milano – Bilingual Montessori School of Milan」の校長ゲニア先生と綿貫愛香先生)

 

「私は思春期の若く多感な時期を、多様な国々で過ごしてきましたが、22歳の時にドイツで写真の勉強をしている時、子どものポートレートを撮っていたんです。大好きな子ども達を写真におさめているうち、もっと子どもというよりは人間の本質について知りたいと思うようになりました。そんな時、日本でモンテッソーリ幼稚園の園長をしている母から、シルバーナ・モンタナーロ先生の第一回(2000年)の0-3歳国際教師養成コースが横浜でひらかれると聞き、代わりに行ってみる?と誘われて、そのまま通いはじめました。」

 

 

 

モンタナーロ先生のこと

– モンタナーロ先生は、残念ながら2018年3月末にお亡くなりになってしまいましたが、先生のコースを受けられてみていかがでしたか?

 

「素晴らしい恩師でした。私はコースの後に運命的にローマに移住して、先生のご自宅の近くに住むという機会に恵まれました。コースの後に先生と共に過ごした10年間は私の宝物です。モンテッソーリの核の部分に流れる哲学の部分に触れさせていただき、人生観が大きく変わりました。

 

ローマでは妊娠期間中から、毎週のように個人的に講義を受けたこともありましたし、RAT法(出産を和らげる呼吸法)を共に行い、息子も新生児の時から孫のように可愛がっていただきました。私も娘のように接していただき、たくさん心に残る思い出があります。また先生の精神科医としての鋭い洞察力も独自の理論も進化系で常に考えていらっしゃる姿を忘れません。」

 

(シルバーナ・モンタナーロ先生と綿貫愛香先生)

 

「大きな出会いでした。宝石をちりばめたような言葉が講義の中にたくさんあり、心が動き、感動しました。人間の本質を知りたい、と思い飛び込んだコースでしたが。そこで学んだのは、子どものことはもちろん、一番考えさせられたのは自分自身のこと、自分の幼児期や傾向性、それらはある意味で内的な旅の始まりでした。中でも印象的なのは、人間を教育するという事は、最大限の素晴らしい芸術ですよと言われ、そしてコース卒業後も写真ではなく、モンテッソーリ教育に関する仕事をしたいと思いました。

 

そのような一本の道筋を提示してくださったこと、今はただ感謝があふれ出てきます。恩師を見送った今、先生の言葉が内から輝いてくれるのを感じています。私が求めていた本物に出会わせてもらえた。そして、温かく導いてくださいました。深い感動は今でもあります。それくらい衝撃的な出会いでした。」

 

 

福岡の0-3歳クラスでの体験

「その後、福岡のモンテッソーリ園の英語教師として働いていましたが、たまたまアルゼンチンの子どもが入ってきたんです。私はスペイン語が話せたので、その子について3-6歳クラスにいったのですが、0-3歳の資格しかないので、うまく援助できませんでした。アンヘルくんは、まさしく天使のような子でした。そこで0-6歳のモンテッソーリの勉強をしたいと思い、モンタナーロ先生に手紙を書いて『どこで学んだらよいでしょうか?』と尋ねた時にロンドンの3-6歳国際教師養成コースを紹介してもらったんです。」

 

– アルゼンチンの子がいたおかげで、3-6歳を学びに行くことになったわけですね。

 

 

 

ロンドンコースでの新たな出会い

「そして、ロンドンでは、リン・ローレンス先生(現国際モンテッソーリ協会事務局長)とヒラ・パテル先生のもと世界中から集まった学生50名くらいで学びました。実り豊かな時間でした。」

 

-リン先生は勿論、ヒラ・パテル先生のお名前も聞いた事があります! どちらもすごい方ですよね。

 

「ロンドンのコースは開かれていて、各レクチャーの講義もトレーナーが何名で役割分担されていました。数学はインド人トレーナーのシェリルフェレイラ先生でした。数の歴史を数学の博士号を持つトレーナーに学んだことは面白かったです。0の観念というのはインドで生まれたんでしたね。

 

ある日、ロンドン初のI.C(Infant Community)1-2歳のクラスを開きたいという方がリン先生に相談に来ていました。その日はちょうど、私は試験前で練習をする必要があり、遅くまで学校に残っていました。夕方、急ぎ足で階段を駆け下りて寮に戻ろうとしていた時、2階と3階の間の階段で雑談をしていたリン先生に呼び止められ『そうだ!0-3歳ができる愛香がいるじゃない!コースが終わったら起ち上げを手伝ってあげてください。』と、誰か国際の乳幼児0-3の資格を持った人を紹介してほしいとリン先生を訪れていた(その後、上司になり、今でも親交の続く)アニータグレボット先生を紹介してくださったのです。」

 

– まさに、運命的な出会いの連続ですね。

 

「はい。階段の上で一瞬のうちに方向性が定められました! そして、ウェストケンジントンのI.Cの1-2歳クラスの起ち上げを2年間くらい手伝いました。ここは教会のホールで週末には教具棚をすべて閉まって、教会に返さないといけません。毎週、引っ越しのような大変なことをしていました。今では懐かしい思い出です。」

 

 

 

イタリア人との結婚

「冬になってクリスマスにイタリア人と結婚した姉に会いにロンドンからローマに行きました。そして、今のイタリア人の夫と出会い、ドミノのようにすべては展開していきました。人生には今という時があるように思います。その自然な流れに乗り、身を任せること。まさに私の人生そのものです。そして、翌年に結婚を機に、ロンドンからローマに移ったんです。」

 

– すごい展開ですね。まさに、愛香さんの人生は何かに引っ張られていますね!

 

「母がペルージアで故パオリーニ女史(モンテッソーリの愛弟子でイタリア人のAMIのトレーナー)に学んでいましたから、イタリアは馴染みのある心惹かれる国でした。実家のリビングルームにマリアモンテッソーリ博士やパオリーニ先生のお写真が飾ってあり、子どものころから親しみもありました。母と一緒にパオリーニ先生の講義を聴講したこともあります。子どもだった私にお話を終えた先生は優しく飴を手に握らせてくれました。なんて上品でエレガントな方なのだろうという印象は今でも鮮明に覚えています。

 

そのようなわけでイタリアという国は幼少期から身近にありました。まさか自分がイタリア人と結婚して、ローマに住むなんて思ってもいませんでしたが。偶然は必然なのでしょうか。そのローマの引っ越し先が、たまたま、恩師であるモンタナーロ先生のご自宅の近くだったんです! 妊娠中も出産後も、ずっと週に1回はモンタナーロ先生のおうちにお邪魔して、素晴らしい時間を共にいたしました。モンテッソーリ教育を超えたところで、一人の人間として、女性として、母親として、たくさん人生についても学ばせていただきました。恩師に、高められ、導かれました。このことは私のモンテッソーリアンとしての揺るぎない軸になっています。」

 

(綿貫先生のご愛息ジョエレ君とシルバーナ・モンタナーロ先生)

 

「またローマで息子を2歳~小学校まで通わせた、伝統的なモンテッソーリ園(Scuola Montessori Elementare)の園長でありオペラ(Opera Nazionale Montessori)のトレーナーであった、故 レディア・チェリ (Lidia Celi)先生との出会いも大きく私を変えました。愛弟子と呼ばれる方々はそれぞれにストーリーを持っており、守り抜いた生きた歴史があります。またモンテッソーリ博士の素顔を知る彼女たちの態度は凛としており、オーラがあるのです。

 

私は、それらのお話に預かれることだけでも幸せに感じました。また母として、子を預ける園がそのような特別な場所であったことも不思議なご縁でした。

 

この時期からモンテッソーリ著書の本はイタリア語で読むようになり、思春期にスペインで過ごしたことによりスペイン語ができたということが、語源の同じイタリア語に入る際に大きく私を支えました。

 

イタリア語でモンテッソーリの言葉を心で感じること、それはたくさん教えてくださったチェリ先生からの賜物です。ちなみにここは人気がある園で、妊娠中に予約をしないと入れない位評判のよいところでした。」

 

 

 

モンテッソーリのバースセンター

– 実際にイタリアでの子育てはいかがでしたか?

 

「まず妊娠中は、ローマのパリオーリ地区にあるモンテッソーリのバースセンター『チェントロ・ナシタ・モンテッソーリ / Centro Nascita Motessori』に、安定期に入ってから出産までの約4か月、週1回、2時間を夫婦で通いました。

 

 

– そこは、どんな場所なのでしょうか?

 

「出産に向けて準備をする、親のためのモンテッソーリ的な援助を学べる場です。0-3歳の教師のトレーニングとはまた別で、コースでは学ばない事…例えば、ベビーマッサージ、衣類のもっと詳しいこと、家庭でのRAT(呼吸法)の在り方、母乳や沐浴について、母親の食事などイタリア文化に根付いた家庭でのリズムにつけ方など、具体的な提案と対処法を学びました。夫と一緒に通って様々なことを学んだんです。それが彼自身が父親になるためにも、とても役に立ちました!」

 

– モンテッソーリの考えに基づいて赤ちゃんを迎える勉強を、両親ができるんですね!素晴らしいですね。

 

「さらに良かった点は、出産前だけではなく、子どもが産まれてからも、実際にサポートをしてくれたということです。0-3歳のモンテッソーリの資格を持ったヘルパーの方が、家に週に3回来てくれて、新生児のお世話の仕方(例えば、授乳、沐浴のさせ方、ベビーマッサージの仕方、オイルの塗り方、オムツのかえ方で歌から導入するなど細かいこと)を、モンテッソーリ教育の見つめる子どもの視点で、実際に教えてくれるんです。生後3か月くらいまで丁寧にサポートをしてくれて、とても助かりました。

 

– それは、新生児をかかえるママにとって、涙が出そうなサポートですね。数はたくさんあるんですか?

 

「バースセンターは、ローマのパリオーリ地区という場所に1か所だけあります。そのバースセンターは、アデレ・コスタニョッキ先生、リディア・チリ先生、シルバーナ・モンタナーロ先生というモンテッソーリの0-3歳のコースをつくった人々が、親のためにつくった施設です。モンテッソーリ自身も『モンテッソーリスクールには、バースセンターも必要である』ということは仰っていました。」

 

 

– バースセンターは、日本でもつくれるでしょうか?

 

「0-3歳のモンテッソーリの資格者がいて、さらに助産師さんなど医療機関の協力があれば、できるのではないでしょうか。とにかくそれは、本当に大きな助けになりました。」

 

 

 

モンテッソーリ教育の魅力

– 最後に、なぜ愛香さんはモンテッソーリに魅了されているのか、その魅力を教えて頂けますか?

 

「それは、モンテッソーリ教育は可能性への挑戦だと思うからです。100年以上も前にローマの貧民街から始まった教育は、子どもの発見を出発点にしています。実験室のように観察を重ねながら発展、進歩、進化を繰り返し、現在も歩み続けている、いわば生きた教育であるからです。私たちにより豊かに生きることを教えてくれます。」

 

 

「モンテッソーリが発見した人間の子どもの普遍的な本質という確かな道筋があり、私たちはその彼女の抱いたビジョンに魅せられ、目の前の子どもたちと共にその道筋を追体験している気がします。

 

そして、子どもは大事なことを教えてくれます。今に生きること。自分の興味に全身全霊で向かっていくこと。無条件に受け入れること。偏見や差別もありません。未来への種まき、そのための土壌創りが現場です。生き方そのものであって、日々、常にそのような小さな人々に関わっているので、明日への希望をもらえるんです。

 

そして、モンテッソーリという名のもとに集まっている人たちは、心が通うんです。人種や国籍や言語、精神文化、受けたトレーニングが違ったとしても、心が通う。それは同じ方向を向いて歩む同志だからではないでしょうか。そういったことが、私の心を魅了している理由なんです。

 

大好きなモンテッソーリの言葉を引用して紹介します。

『子どもは愛の源です、子どもに触れる時、同時に愛に触れているのです』(創造する子ども、p286、第28章愛の源―子ども)

 

(綿貫先生のご愛息ジョエレ君)

 

「未来を創るのは彼らです。まさしく人類の父ですね。私たちは橋渡し役でしかない。モンテッソーリアンは、子どものデリケートで繊細な魂に奉仕をさせていただいているという意識が芽生えた時に本物になる、とイタリアの恩師たちが教えてくれました。柔らかいこころで子どもと関わりたいと常に思っています。常に感じるということを大事にしています。感じることができれば、共感できるからです。

 

では、どのようにするのか?それは個人個人の課題だと思っています。大きく言えば国の課題でもあるでしょうね。拡がるのか、狭くなるのか、やるのかやらないのかで結果は違います。

 

私はお仕事をする子どもの手が大好きです。人間の知性は素晴らしいなと思います。そして、自分自身の幸せな幼児期を手のうちに思い出します。」

 

(綿貫先生のご愛息ジョエレ君)

 

「現代を生きる私たちには識別する、その感性を養う、それも大事な知的作業であって、時代が淡々と移り変わる中、モンテッソーリ教育には大切な使命があり、そこに貢献できることを誇りに感じます。

 

と同時に、次世代、またその次世代に想いを寄せる、とても意義のある仕事だと思っています。『子ども』という共通言語を通して、お互いの様々な違いを受け入れることができる、そのことが『平和』への教育に繋がっているのだと思います。」

 

– マリアーニ・綿貫愛香先生、ありがとうございました!

 

 

【マリアーニ・綿貫愛香先生 関連サイト、書籍】

・綿貫先生のブログ「Montessori from Italy イタリア発 モンテのこころ」

・Facebookページ「Montessori from Italy イタリア発 モンテのこころ」

・Facebookページ「モンテッソーリ教育 Montessori Education」

「イタリアざんまい」(イタリアで働く日本人として紹介されています。)

・クレヨンハウス出版の「クーヨン」(綿貫先生のイタリアでの子育てが特集されています。)

 

   

 

 

 

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