2018.04.19 炭川純代先生インタビュー②
アメリカでモンテッソーリ園を開くまで


 

 

炭川純代(すみかわすみよ)先生プロフィール

 

モンテッソーリ国際学園創立者。モンテッソーリ国際学園初等科プログラムディレクター。

American Montessori Society (AMS) 認定の幼児及び小学部の資格取得。Casa Montessori School に7年間勤務(3-6歳児のクラス担任)。2003年 University of California Los Angeles、で心理学学士号取得。2009年College of St. Catherineにて教育学の修士号取得。公益財団日本モンテッソーリ教育綜合研修所研究員。カサモンテッソーリスクール(ノースリッジ・ロサンゼルス)役員。

 

 

 

自園のオープンまでの経緯

– 前回のインタビューでは、炭川先生がアメリカに留学し、モンテッソーリの園に就職し、大学に入られたところまでお伺いしました。

 

いよいよ、この素晴らしいモンテッソーリスクールをアメリカでオープンするわけですが、今回はその経緯をお伺いできますか?

 

「ここモンテッソーリ国際学園(Montessori International Academy)は、2010年に幼稚園の教会に併設されたお部屋でスタートしました。2年が経った2012年には園児が約40名に増えたため、広い園舎への移転を決意し、5つの教室を有する施設と広い園庭がある、現在のサンタアナ校に移りました。」

 

(モンテッソーリ国際学園の入口)

 

– なぜその部屋で始められたんですか?

 

「2010年当時、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成センターで、教師養成をする先生として教え始めていたんです。でもその時幼稚園という現場から離れていたため、『子どもと直接関わる、現場のクラスがあったら良い』ということと、『アメリカに住む日本人の子どもたちのお役に立ちたい』という思いがあり、『またクラスを持ちたい』と考えていました。

 

そこで『アメリカのどこかで自分で学校をできたらいいな。その場合はどんな感じで部屋を借りるんだろうな。』と思いながら検索していたんです。すると偶然この良い場所が見つかり、それで一目見て気に入ってしまいました。

 

最初は『ちょっとやってみようかな』というくらいの気持ち。でも実際に場所も見つかったし、しばらく待ったらその場所が他の人に借りられてしまうから、10月15日にサインして、11月1日から開園したんです!」

 

(2016年10月には5歳以上対象にした小学部も設立し、6000フィートの広大な新校舎でそのディレクターもつとめている。)

 

 

 

開園までの準備

– 開園には日本のように、届け出が必要なんですか?

 

「はい。幼稚園は、ソーシャルサービスという所が管轄していて、許可を取るためにそこへ行って、届け出をしたり、講習を受けたり、色々やらなくてはならないんです。カリフォルニア・デパートメント・オブ・ソーシャルサービスというところです。

 

例えば、どの規模の幼稚園なのか、家を借りてやるのか、それとも施設を借りてやるのか、会社の情報、個人の情報、資本金はいくらなのか、など20種類ぐらいの書類を用意します。でも何より厳しいのは、『場所』のことです。面積によって、この広さなら子どもが何人までと計算しなくてはならないんです。」

 

(モンテッソーリ国際学園の広大な園庭)

 

– そうなんですね。補助金に関してはいかがですか?

 

「実はアメリカには補助金がないのです。」

 

– えっ、ないんですか?

 

「どの幼稚園や保育園も一切ありません。だから授業料が高いんです。」

 

– では、ある意味平等というわけですね。

 

「そうですね。でも、やる側からすると、補助金が絡んで来ない分、本当にシビアなビジネスなんです。」

 

– では補助金も絡まないから、特に監査等は無いんでしょうか?

 

「いえ、すごく厳しい監査があります。いきなり監査の人が現れて、『止まりなさい!』と言われて人数を数えられたりもします。3-6歳の場合は先生対子どもの比率が、1対12と決まっているのですが、もしそれが合ってなかったりしたら、そこで罰金です。また罰金に加え、営業停止になることもあるようです。」

 

– そんな短期間での準備でしたが、先生や生徒の募集は、どのように行ったんですか?

 

「日本では先生をどういう場所で募集するのか分からないけど、ローカルな求人広告を出したら、運よく現在ディレクターを務めているAmy先生が来てくれたんです。彼女は、私が初めて雇った先生なんですよ。」

 

(モンテッソーリ国際学園の3-6歳クラス。現在では大勢の生徒達が通っている。)

 

– 最初の募集で、良い先生が来てくれたんですね!

 

「そうなんです。2016年の10月にオープンした小学校の建物は幼稚園と離れているのですが、私がディレクターをやるために、Amy先生に3-6歳の棟を任せています。」

 

– それで、最初から生徒は集まったんですか?

 

「いいえ、集まりませんでした。なぜなら、時期は通常の新学期の9月ではなくて、11月にスタートしてるんです。」

 

– 日本でいうと、幼稚園を4月ではなく、6月にオープンするような感じですよね?

 

「そう。だから11月なんて子どもたちも集まらない時期なんです。でも幼稚園の教会についているお部屋を見た時に、『どうしてもここでスタートしたい!』と思いました。その時期がたまたま6月だったんです。

 

Amy先生が今でもよく言います、『最初は生徒全然いなかったよね』って。最初の2週間ぐらいかな。ずっとラミネートばっかりかけさせちゃって、『あー、こんなんで大丈夫なんだろうか』とか『私の仕事は続くんだろうか』って心配していたらしいんだけど。今は笑い話です。」

 

(モンテッソーリ国際学園の3-6歳クラス)

 

– 今現在は、2歳~小学生まで大勢の生徒たちがいるわけですから、信じられないですね。

 

「そのうちに、子どもが一人入って来てくれました。その子が初めての生徒で、先生2人に対して一人みたいな感じでした(笑)。私が担任で、Amyがアシスタントでした。」

 

– 贅沢な状況ですね!(笑)

 

 

 

アメリカのバイリンガル教育

– モンテッソーリ国際学園は、モンテッソーリ教育に加え、「日本語と英語のバイリンガル教育」が特色の一つですが、最初からバイリンガルだったんですか?

 

「バイリンガル教育もやりたいと思ったので、マリーン・バロン先生という、アメリカモンテッソーリ協会の元会長の先生にバイリンガル教育のアドバイスを頂きました。その際、『先生の一人が日本語でもう一人が英語を専門で話した方が良い』とアドバイスを頂いたので、全くその通りにしてやりました。『Two-way immersion Programs(双方イマージョン・プログラム)』というもので、言語の使い分けの練習をします。英語、日本語の担任がいて、先生は一人一言語いちげんごを話します。」

 

(モンテッソーリ教育の言語活動)

 

– 3-6歳のクラスでは、担任の一人が日本語、もう一方の担任が英語で話す、ということを徹底されていますよね。一方で、2-3歳児のクラスは日本語オンリーなのはなぜでしょうか?なるべく早いうちから英語に触れさせて、英語脳を作るのが大事だとも言われているようですが。

 

「2-3歳位までは母国語を大事にしないと、第二言語は育たないからです。2-3歳の時期は、まず第一言語をしっかり身につけないと、第二言語が中途半端になってしまう危険があるという考え方を信じています。

 

アメリカに住む日本人の子どもは、少なからずとも小学校からは英語で勉強をしなくてはいけなくなるため、英語もマスターする必要があります。日本語をしっかり身に付けて、ギリギリ英語も入れられるところと言ったら、やっぱりスタートは3歳頃だなと思います。」

 

(モンテッソーリ国際学園の2-3歳クラス)

 

「だから、2-3歳のクラスは日本語のみで英語を使わないんです。それで3-6歳のクラスになった時に初めてバイリンガルの環境になるんです。だからと言って、英語だけがすごい伸びると言うとそうじゃないです。徐々に徐々にゆっくり伸びていくんです。日本語でしっかり考える力もついているから。」

 

– そうすると、日本でも子どもをバイリンガルに育てるために「1-2歳位の時期から英語に触れさせる」 と言うのは、あまり意味がないんでしょうか。

 

「でも、日本にいるから、そこは少し異なるのではないでしょうか。ここはアメリカだから、日本語のインプットやアウトプットが少ないために、気をつけないと日本語が少しおろそかになる可能性もあります。日本では、どんなに英語を聞いて喋っていたとしても、日本語はどこにでもあるから。

 

今ここの子どもたちを見ていても、だいたい幼稚園の年代になると英語の方が徐々に強くなり始めているから、そのぐらいのバランスで小学校に入って、後は日本語を細く長く続けて行く形で、日本語をキープしていくのが一番いいと思います。」

 

(モンテッソーリ教育の言語活動)

 

– では2-3歳クラスで日本語オンリーだったから、後で英語がちょっと遅れていて困る事はないのですね。

 

「いいえ、最初は英語が遅れていて当然で、むしろその方が良いと思っています。保護者の中には、最初は『うちの子の、このままで英語が大丈夫かしら』と心配になる方もいらっしゃるんですが、まずは日本語の脳でしっかりと深く考えられるようになっていることが大事だから、大丈夫なんです。

 

それに、幼児期に子どもが学ぶことって、言語だけじゃないですよね。色々なことを学んでいます。幼児期に知性などが育って行く中で、一つの強い言語でしっかりと物を考えられるようにした方が良いってことなんです。」

 

 

 

モンテッソーリ教育による人間教育

– 子どもたちが何かを習得する時に、一番必要なものは何だと思いますか?

 

「私は、例えば言語の習得だったら、ただ言語だけを与えてれば良いというものではないと思っています。大事なのは、幼児期の人格の形成です。モンテッソーリ教育によって、人間の土台が子ども達にしっかり出来上がったら、後はどんな物でも学んでいけるんです。

 

私はお母さんたちに『うちは英語と日本語という、2つの言語取り入れてるけど、私たちのことをバイリンガルを育てる言語スクールと思わないで下さい。』と伝えています。

 

私たちは、モンテッソーリスクールなんです。子どもたちの基礎となる、人間の原点をつくる学校です。

 

(モンテッソーリ国際学園3-6歳クラス)

 

– 言語はすぐに結果として見える形で現れるから、それだけを見てしまいがちですが、目に見えないもの…一生の人間としての土台を、ゆっくりと子どもが幼児期に築き上げていることがもっと大事だということですね。

 

モンテッソーリ教育によって、たくましく、自分で自分の学習ができるような力をしっかりつければ、日本語なり英語なりで努力ができる子どもになります。それができれば、新しい言語の習得にしても何にしても、その目標に向かって、自ら一生懸命やろうとしますよ。」

 

(モンテッソーリ国際学園3-6歳クラス)

 

 

 

先生達へのメッセージ

– たくさんの先生を束ねていらっしゃいますが、先生方に何か伝えたいことはありますか?

 

 

「私は、トップとして先生たちに求める物もあります。各先生たちがそれをどんな風に発揮していくかは、人それぞれ違うと思いますが、とにかく個々が成長しなければ、皆と一緒にチームで仕事はできないと思うんです。幼稚園は、皆で一緒にチームワークでやっているから、自分の欠点が絶対に他のところにも影響が出るじゃないですか。

 

例えば、協調性を持てるか、何かトラブルになった時にオープンになって話せるかなど、プライドをいい意味で捨てられるかなど、全てひっくるめて、それら自分の課題をどうやって克服し、成長していくか、というところが大事です。」

 

(3-6歳クラスの英語での担任の先生。抜群のチームワークで、子ども達の成長を見守ります。)

 

「根本的に、皆でやって行きたいという気持ちがないとダメだから、その辺の自分の殻をどこまで破れるかっていうこと。それが良い先生として成長していくために一番必要であり、課題だと思います。

 

例えばクラスを一つ任されて、ただその中だけで上手くやれれば、他とあまり関わりがないというのではなく、皆で一緒にやれるようなチームプレーヤーでなければ、モンテッソーリの園の先生はできないと思うんです。」

 

(3-6歳クラスの日本語での担任の先生。笑顔で迎えてくれました。)

 

 

 

終わりに

最後にアメリカでモンテッソーリスクールをオープンしてなお、どんどん飛躍していくパワフルな炭川純代先生にいただいた言葉を紹介します。

 

「これからの人生どうしたらいいんだろう、と悩むような時もあると思いますが、人には、皆、やるべきことがあるんだと思います。それが見つかった時、すんなりと道が開けていくと思います。自分もそうだったから。私もこれからも、子どもたちのために自分のやるべきことを信じて進んでいきます!」

 

 

炭川先生、本当にありがとうございました。

 

 

 

モンテッソーリ国際学園(Montessori International Academy)

2717 S. Halladay St.

Santa Ana, CA 92705,U.S.A

http://www.monteintel.org/jp/

 

 

 

 

お知らせ

 

現在、炭川先生がディレクターを務める「モンテッソーリ国際学園」では、先生の募集を行っております。こちらも是非ご覧下さい。

 

 


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