今回から、エレメンタリーガイド(小学校教師)のキャリアや、仕事としての魅力、そして資格取得の道のりなどをお伝えするキャリアインタビューをお届けします。
第一弾は、スウェーデンのモンテッソーリ小学校でエレメンタリーガイドをされているオスターグレン・モニカ・静さんへのインタビューです。
マリア・モンテッソーリが生まれたイタリアでエレメンタリーの資格を取得され、複数の国のモンテッソーリ小学校で教師経験を積まれた先生です。
モンテッソーリ小学校での印象的なエピソードをもとに、エレメンタリーガイドの魅力についてお聞きしました。
(取材・文 イデー・モンテッソーリ ライター 松尾)
プロフィール
オスターグレン・モニカ・静さん
AMI公認の6−12歳の小学校教師。スウェーデン人の父親と日本人の母親の元、横浜で生まれ、日本とスウェーデンで育つ。
カナダで小学校教論学士を習得後、NGOピースボートにボランティア英語教師として乗船。
3ヶ月後下船する頃にはモンテッソーリ教育に魅了され、モンテッソーリ教師の資格を取る事を決意。
イタリアベルガモでAMI6-12の国際資格を取得後は、香港のインターナショナルモンテッソーリスクールで6年経験を積む。
3年前にパートナーと愛犬とともにスウェーデンストックホルムに移住。現在、ストックホルムのモンテッソーリスクールに勤務中。
モンテッソーリ小学校教師としての日々をインスタグラム@montesstories_sweden のアカウントで発信している。
6-12の発達段階で学ぶことの面白さに魅了された
筆者:現在はスウェーデンの小学校で先生をされていますが、モンテッソーリ教師になられた経緯はどういったものだったのでしょうか。
オスターグレン・モニカさん(以後モニカさん):
大学はカナダで、教師になる勉強をしていました。しかし、座学や教育実習を経ても、従来の教育のやり方に疑問があり、このまま自分は先生になるのだろうかというモヤモヤはありました。
子どもはそれぞれの発達があるのに、25人全員に合わせて授業をしないといけないこととか、子どもが集中してきたタイミングであっても、「はい国語は終わり、次は算数」といった形で決められたカリキュラムを進めなければならない方法で、本当によいのだろうかという疑問でした。
そこで、大学卒業後のギャップイヤーにボランティア活動で「ピースボート」に乗ったときに、モンテッソーリ教育に出会いました。
ピースボートのこどものいえで0-3歳の英語を受け持つ中で、子どもひとりひとりの興味を沿って活動を行うこととか、時間に縛られない形で進む環境を見て、「これは自分に合っているな」と感じ、ピースボートを降りたときにはモンテッソーリ教師になることを決めていました。
当時のピースボートには深津高子さんを始め、経験豊富で素敵な先生が何人もいらっしゃったので、毎日たくさんのことを吸収させて頂きました。
(写真提供:モニカさん)
– そこからはどのように資格を取得されたのでしょうか。
モニカさん:モンテッソーリ教師になることは決めていて、あとは0-6か、6-12のどの段階にするかということを考えました。
実際、教室とかを見てみたり、話を聞いてみたりしたのですが、6-12の発達段階で学ぶことの面白さに魅了されました。
世界がどういう成り立ちになっているのか、自分でも今まで考えたこともなかった問いに向き合うことになるんです。
なぜ1時間は60分なのか、とかそういったことを考えたり学べたりすることが楽しくて、自分自身の興味にも合致するなと感じたので、6-12の資格を取得することにしました。
イタリアのベルガモを選んだのは、自分がスウェーデン国籍も持っていたのでビザの取得しやすさとかを考えて、という感じです。
– イタリアでの留学はいかがでしたか。
モニカさん:まずは、勉強がハードでした(笑)。
授業ではトレーナーの話をみっちり書き留めて、教具の提供方法とかも絵で書いてメモをして、寮に帰ってからはそのノートをパソコンに清書して、アルバム(自分専用のティーチングマニュアル)づくりをしていく生活でした。
コースは1年でしたが、大学の4年間の知識量よりも多かったように感じます。ただ、「子どもにどう教えるのか」「どう提供するのか」といったことを本当に細かく学べるので、コースを終えたあとは、先生としてやっていけるぞ、という大きな自信を持てていましたね。
(写真提供:モニカさん/卒業パーティーでクラスメイトと先生と)
– 大変だけど、その分教師としての成長に繋がるのですね。留学で印象に残ったことはありますか。
モニカさん:勉強は大変だったのですが、一緒にコースを受ける仲間とはお互い助け合って、今でも仲の良い友人です。
自分がノートを取れなかったところとか、英語を聞き取れなかったところを聞いたりして本当に毎日助け合っていました。
寮の門限に遅れないように、一緒にベルガモの街を走って帰ったりとかしたのも青春の思い出ですね(笑)
(写真提供:モニカさん/お世話になった修道院の寮で、シスターと)
あとはベルガモは特に環境づくりへのこだわりが強かったので、教師が愛情を込めて教具を手作りすることを重視していました。
でも自分が情熱をもって色を塗った教具を、子どもは「これ誰が作ったの?すごいね」って気づいてくれるんですよね。そういう瞬間は嬉しいですよね。
(写真提供:モニカさん/一生懸命色ぬりをした生命の歴史のタイムライン)
一言の投げ掛けが、子どもたちによってどんどん大きく広がっていった
– その後、香港で6年、スウェーデンで3年、エレメンタリーガイドとして活躍されたのですね。
モンテッソーリ小学校と通常の小学校の大きな違いはどんなところにあるのでしょうか。
(写真提供:モニカさん/エレメンタリークラスの様子)
モニカさん:子どもも大人もフラットな関係で、子どもには自由と選択肢があります。子どもへの信頼がベースにあると感じますね。
抽象的ですが、モンテッソーリ小学校では、「教師が子どもに知識を詰め込む」という関係性ではありません。子どもたちが自分で、環境からヒントを得て、自分なりに世界への理解を深めるっていうところは、 すごい素敵だと思っています。
(写真提供:モニカさん)
– モンテッソーリ小学校において、子どもたちがどのように過ごし学ぶのか大変興味があります。印象的なエピソードはありますか。
モニカさん:モンテッソーリ小学校では、できればクラスでペットを飼おうという考え方があります。それは命のお世話をするという責任感を育てるとか、生物について学ぶときの起点になるといった背景があるのですが、香港で教えていたとき、私はクラスでペットを飼ってみないかということを投げかけてみました。
すると、その一言の投げ掛けが、子どもたちによってどんどん大きく広がっていったのです。
1〜3年生の合同のクラスだったのですが、まず3年生がどんなペットがよいか、リサーチをして発表をしてくれました。ハムスターだったらどういうお世話をしないといけないか、魚だったらどれくらいお金がかかるか、などを調べて、「アレルギーがある子がいるね」などと話し合いを進め最終的にはリクガメを飼うことに決まりました。
飼い始めてからは、一生懸命お世話をしていました。毎日お風呂に入れないといけないので、子どもたちで熱すぎたりしないちょうどよい温度を調べたりして、当番の2人がシャワーで丁寧に洗ってあげて、お散歩させてあげて。エサも最初は購入していたのですが、学校の畑で野菜を育ててあげるようになっていきました。
また、モンテッソーリ小学校ではゴーイングアウト(Going out)という自分たちで計画する校外学習を重視するので、定期的に子どもたちが餌や床下に敷くウッドチップを買いに行ったり、リクガメを街の獣医さんのところへ連れて行って、うまく育っているかを見てもらったりしていました。
(写真提供:モニカさん / リクガメの飼育の様子)
– それは大変幸せなリクガメですね(笑)
モニカさん:はい、とてもとても幸せだったと思います。そしてここからが本題なのです。
飼育を始めてから2年ほど経ったとき、ちょうどリクガメを飼い始めたときの1年生が3年生になっていました。週に一度クラスミーティングをしていて、何かあったらみんなで解決するために話そうという場があるのですが、そこで「リクガメが大きく成長してきて、住み家が小さくなってきた」という提案が子どもたちからありました。
じゃあどうしようか、もっと大きいのを買わないといけないね、と話が進み、じゃあお金が必要だねとなったときに、当時の3年生から「サンドイッチを作って学校で売ってお金を貯めたい」という意見が出ました。
そこから本当にサンドイッチのビジネスが始まりました。
最初の資金は、保護者たちにお手紙を書いて寄付を募り、
「その元手でどんなサンドイッチをつくろうか」
「サンドイッチづくりにはどれくらい時間がかかるかな」
「自分たちはサンドイッチ以外にも教科の勉強もやらないといけない。どのくらいまでサンドイッチのビジネスに時間を費やそうか」
といったことを、ひとつひとつ一緒に決めていきました。
また、実際に販売を始めたときにも
「フードロスが出たらいけないね」
「じゃあ作りすぎないようにどういう仕組みにしようか。事前に注文を受け付けるのはどうだろうか」
といったことを話し合いながら進め、半年くらいかけてお金を貯めていきました。
(写真提供:モニカさん)
そして最後には、自分たちで本当に素敵なリクガメの家をマーケットに買いにいって、自分たちで一生懸命運んできて、自分たちで説明書を読んで組み立てていました。
このエピソードは私の中で本当に印象に残っています。
– 子どもたちだけでそこまでできるのですね。。数年かけて同じペットと過ごすということも、決められた教科だけでなく自分たちで企画したプロジェクトに腰を据えて取り組めるのも、モンテッソーリ小学校ならではの本当に素敵なエピソードだなと感じました。
モニカさん:私自身も驚きました。
子どもが意欲さえあれば、その意欲の小さな炎を消さないように気をつけてあげれば、その炎はどんどん大きくなっていくんだなと。
子どもたちも自分たちで成し遂げたことに対してすごく自信を得ていたと思います。
(写真提供:モニカさん/エレメンタリークラスの環境)
– 最後に、これからエレメンタリーガイドを目指す日本の方に一言お願いします。
モニカさん:モンテッソーリの小学校教師をやりながら、毎日が未知なる冒険だなと感じています。
先ほどのリクガメのエピソードのように、大人が一つ投げかけたものが、波紋のようにどんどん大きく広がっていく、というのはエレメンタリーガイドの面白さであり、難しさであると感じています。投げかけても、興味がなくて全然リアクションがないことももちろんあるので(笑)。
今はまだ日本で資格が取得できないので、留学生活や言語の壁も大変だとは思いますが、モンテッソーリ小学校が増えるといいなと思っていますので、エレメンタリーガイドの資格取得を目指されている方を応援しています。
(写真提供:モニカさん/エレメンタリークラスの様子)
– 本日はありがとうございました!
(取材・文 イデー・モンテッソーリ ライター 松尾)
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