前回は、リナ先生がBeth Montessori(現 国際モンテッソーリ協会認定モンテッソーリスクール)を始めたきっかけについてご紹介しました。
今回も人的環境を整えることの重要さについてお話し頂いています。
先生方を優しく包み込む、リナ先生の真意とは…。
人的環境の大切さ
先生同士のコミュニケーション
「一つのクラスの中で、担任とアシスタントが良いコミュニケーションを取ることもとても大事です。慣れて来ると、話すだけではなく目でのコンタクトもできます。保育中、二人の思考が同じチャンネルに入っていると、話さなくてもそれをアイコンタクトで確認できるのです。
アシスタントが、いかに担任を補佐するか。それも重要です。『それを取って』とかそういうことを大声で相手に伝えるのではなく、顔の表情でお互いに分かり合えるような仲になるということです。」
まさに、阿吽の呼吸が大事なのですね。
※アメリカではモンテッソーリの資格を持つ「ガイド(担任)」と、モンテッソーリの資格を持たずガイドを補佐する「アシスタント」に立場がはっきり分かれている。子どもに提示する(活動のやり方を紹介する)のはガイドのみで、アシスタントは完全に補佐役に徹している所が多い。
(右が担任のクローディア先生、左がアシスタントのタミー先生)
先生が幸せに働く為に
– 先生が幸せに働くことを実現するために、どんなことをしていますか?
「園長として、みんなに理解して欲しいことは一つ。『職場で色々な嫌なことがあった時に、それを個人的にとらないで』ということです。
先生たちが悲しんだり、怒ったり、イライラしたりしている時、私はここにいて皆を受け入れ、話を聞きます。先生方が“自分が受容されているんだ”と感じられるように。そうすれば、たいてい彼らは自分で解決をしていきます。
私は、拒否せずにどんな時も先生達のことを包み込みます。
なぜなら、先生方にも同じように、どんな時も子どもたちを包み込んで欲しいからです。
私が上司として先生方を扱うように、先生方は子どもたちを扱うからです。
“The way I treat them, they treat the child.”
先生達が精神的にも、そして肉体的にも疲れないような配慮があるようです。
「先生達が疲れている傾向にあるのは、日本だけではなく、アメリカでも同じです。沢山の学校で、先生が疲れ切っていて、笑顔もなく、怒りっぽい姿を見てきました。それは、私が学校をつくった時に、自分の園はそうしたくない、と思ったことの一つです。
先生たちは7時間働き、休憩は30分です。でも、掃除は一切しません。夜になると専門のスタッフが来てやります。机拭き、床掃除、食器類や洗濯物を洗う等、教材以外全てを頼んでいます。
それは、先生のエネルギーの全てを、子どもと教材に注ぎ込んで欲しいからです。」
そのために、掃除は掃除専門のスタッフを雇い、先生には先生しかできない教材の準備に時間を取っているとのことです。
物的環境を完璧に
– その他には、良いモンテッソーリクラスを作る為に何が大切だと思いますか?
「クラスの教材を完璧な状態にすることです!」と、きっぱり。
– 次に、“物的環境を整える”ということですね。
「例えば、“日常生活の練習で”は、ピッチャー、ボール等の教材を沢山を買い揃えます。そして、いつも完璧に揃っているように入れ替えます。そのための倉庫もあります。」
(恥ずかしい、と言いながらも教材倉庫も見せてくれました。)
「先生には朝と夕方に教材が完全に揃っているかをよく調べ、準備をするための時間もきちんとあげています。」
子どもへの接し方
「環境を整えるだけではなく、子どもへの声のかけ方もとても重要です。
声を高くしないこと。例えば、クラスの中で走る子供がいた時“○○ちゃん、走らなーい!!!”と大人が声を高くして注意すると、恐らくその子はもっとそれをするでしょう。
反対に、声をとても柔らかく、低めにし、落ち着いて優しく話します。“○○ちゃん、走りたいのね。わかった。では、お外に行って走ろうね。”
子どもが興奮した時、一緒に大人も興奮しては逆効果です。子どもが興奮し、して欲しくないことをしている時、大人は逆に声を低くするのです。トーンを低くし、ゆっくりめに、落ち着いて話しかけることは非常に有効です。」
でんぐり返しの効果!?
「それから気を付けることがもう一つあります。お部屋の中でキャーキャー走り回る子どもを、外に連れ出して、走らせるともっと興奮してしまうことがあります。子どもによっては、外で走って発散することで、余分なエネルギーを失う場合もありますが、逆に、より興奮してもっと大きなエネルギーを作ってしまう子もいるからです。」
「そういう時は、心を落ち着かせる為に『マットで5分間でんぐり返しをさせる』ことがとても有効です!その場でぐるぐる回ったりすることも良いです。その動きが、脳を通じて心を落ち着かせてくれます。」
色々なコツがあるのですね。
ここで、リナ先生が声掛けの見本を見せてくれましたが、低めの声で、とても優しく、柔らかく、気品がありました。胸からではなく、おへその下から声が出ている、そんなイメージです。
「子どもにどのように話しかけるか、そして、どのように提示を行うか、は大変重要です。
『走らない!走らない!走らない!』と大声で怒鳴るのではなく、柔らかい低い声で『ここでは走らないというお約束あったよね』と伝えるということです。」
MISDとの関係
– MISDトレーニングセンターのすぐ隣にありますが、何か関係はありますか?
「付属園ではありませんが、勿論トレーニングセンターとはとても良い関係にあります。エレメンタリーコースを作るに当たり、トレーニングセンターの付属のこどものいえにも小学部を作ると言って来ました。
実は…私達も独自で小学校を作りたかったのですが、トレーニングセンターの付属園の小学部の立ち上げに協力しました。そしてそこへ、ここの卒園児を送っています。生徒の両親にトレーニングセンターのエレメンタリーを推薦し、卒園児の80%はそのままエレメンタリスクールに通っています。」
(MISD エレメンタリースクール)
– Jewish Schoolということは、ユダヤ系の方が多いのですか?
「宗教は問題にしていません。勿論Jewish School として、ユダヤ教のお祝いなどはしています。でもユダヤ人に限らず、どんな国のどんな宗教の子どもも受け入れています。
また、生徒は近隣の子どもだけではなく、車で40分以上かけて遠くから通う子供もいるようです。」
– 近いから、という理由ではなく、選ばれているのですね。
「私達の夢は自分のモンテッソーリスクールを高校まで開くことです。でも、サンディエゴは場所を探すのが大変難しいです。大きな場所がなくてはいけませんから。」
リナ先生からのメッセージ
– 最後に、クラス運営に悩みを持つ、モンテッソーリの先生に何かメッセージはありますか?
「“If you are doing all the time the same, you are going to receive all the time the same. ”
“同じことをやっていれば、ずっと同じ結果を得るだけです。
もし、何かうまくいっていない、と感じるのなら、何か変えなければいけません、だってやっていることが良くないはずなのだから。何事も日々の積み重ねですから、私達も、継続して努力中なのですよ。お互いに頑張りましょう!」
人的環境は、小さな子どもの成長に大きな影響を与える、と頭で分かっていても、働く大人のことはどうしても後回しになりがちです。
しかし、ここではまず人的環境を整える=先生が幸せに働ける環境づくり、ということを本当に大切に考えていました。
そして、そのうえで、その人的環境が、さらに物的環境を整えています。
・コミュニティとしての意識を持って、一体感を持って働く。
・さらに、先生が子どもを受け止められるように、園長が先生を受け止める。
そんなリナさんの日々の試みが、幸せな園を実現しているのだと感じました。
Beth Montessori
8660 Gilman Drive La Jolla, CA 92037
http://www.bethmontessori.com/
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